East End Wilder

自然を遊びつくそうぜ!!のブログ【ガチサバイバル】

【山の不思議話】野犬との出逢い

弱肉強食の住人
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どんなに心細かっただろう

どんなに不安だったのだろう

どんなに怖かっただろう

 

そんなことを思うと、いまでも胸がギュッと締め付けられる

 

人など来ないような山奥に彼女はいた

産まれたばかりの子供を2匹抱えて

 

いつから彼女はこの生活をしているのだろう

もしかしたら飼い犬だったかもしれない

もしかしたら産まれてからずっと野性だったのかもしれない

いずれにしても、人間に心を許さなかったところからも、長い間、この野性の世界の住人だったのだろう

 

キツネやクマなどの獣や、オオワシやフクロウなどの猛禽類たちがいつ自分の子供におそってくるかわからない恐怖と闘いながら彼女は懸命に生きていた

通常、犬は6~10頭は子供を産むが、現に彼女の子供は2頭しかいない

栄養状態が悪く出産数が少なかっただけなのか、獣に襲われ我が子を失ったのか、はたまた自分の命を繋ぐため、自身で我が子を食したのか

どうであれ、過酷な状況のなかで彼女は生きていたに違いない

 

彼女の体は痩せこけ、毛は薄い

明らかに栄養失調だが、子供のために乳房は大きく膨れているので、犬としての体のバランスが変に思えた

 

 

初めて彼女と出逢ったのは、ワンパクがいつも籠もる山でのこと

あの「主(ぬし)」のいる山

 

ワンパクが山に入るのは、朝でも夜でも関係なく入林する(絶対にオススメしません)のですが、そのときも夕方6時を過ぎたころに入林しました

車から降りた途端、

「わんっ!」

と一度だけ強く吠えました

「クマか!?」と最初は驚きましたが、すぐに「犬!?」と思い、声のする方へ近づくと、産まれたばかりの仔犬を守る母犬の姿がありました

痩せこけた体で震えながら必死に仔犬を守っています

 

車にあったスナック菓子をあげたのですが、彼女は警戒心が強く、食べません

彼女に近づくことすらできません

仕方なくワンパクはその場から離れると、スナック菓子に寄っていき、むさぼるように食べていた

この日は山に入るのを諦め、近くの町へ戻ります

その車中で、妻とワンパクはずっとその犬のことを考えていました

「彼女にお腹いっぱい食べさせてあげたい」

「仔犬はお腹を空かせていないだろうか」

 

そのまま妻とワンパクは無言でコンビニに入り、犬のエサを大量に買い、いま来た山に再び向かいました

 


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秋の夕暮れは早く、再び山に着いたときには、辺りはもうすでに闇夜に包まれていました

ヘッドライトの光の先に浮かび上がる彼女の姿がありました

とてもこの闇の恐怖と寒さを彼女が乗り越えられるようには見えません

早速、エサを彼女の近くに持って行きますが、一定の距離以上は近づかないように逃げていきます

食べ残しがあると、他の獣を誘引してしまう恐れがあるので、一食分だけエサを紙皿に入れ、巣の近くに置いた

ワンパクと妻が車に乗り込むと、彼女はすぐにエサに飛び付き、平らげたあとに、巣の近くにある川へ水を飲みに行った

 

車を回し、家路につこうとすると、彼女は御礼を言うかのように、川から上がってきて、お座りをしながらこちらを見届けていた

その姿がテールランプの赤い光で闇夜に映し出され、ワンパクはバックミラーで彼女の姿が徐々に小さくなっていくのを見ていた

 

助手席で妻は涙を流していた

 

こんな山奥に、彼女をたった一人にさせてしまったような感情と、なにもしてあげることができない自分

彼女がこちらを見届けていた姿が頭から離れないようだった

 

妻もワンパクも大の犬好きだ

結婚してから犬を飼っていなかったのは、二人の子供が産まれてから犬を飼おうと決めていたからだ

しかし、ワンパク夫婦は子宝には恵まれずに、不妊治療を受けていた

 

当時ワンパクは、多忙を極める部署に配属されていたので、帰宅は日付をまたぐのがあたりまえだった

彼女と出逢った翌日、いつもより早い23時すぎに帰宅したのだが、妻はワンパクが考えていることをお見通しだったようで、二人はそれから2時間かけて“彼女”に会いに行った

 

次の日には、妻はうれしそうに鼻歌まじりで彼女のエサを用意していた

そしてまた会いに出掛けた

 

そして次の日も

次の日も

 

毎日彼女に会いに出掛けた

 

ある日、そこに彼女はいなかった

 

彼女の危機

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この日、この場所に着いたのは午前二時すぎ毎日このくらいの時間にワンパク夫婦がここに来ていたので、彼女もいつしかそれを待っているかのように、巣から出てきていて、車のヘッドライトが見えると林道の入り口まで出迎えていてくれた

しかし、この日彼女の出迎えはなかった

巣を見ても彼女も子供たちもいない

 

『住処を変えたか?』

少しの間ではあるが、お互いに築き上げてきた信頼関係を思うと少し悲しくなった

だが、淋しくはあるが後腐れがなく、これが一番いい結果だったのだろう

彼女たちの選択を応援してあげようと同時に思えた

 

ここは常に野生が支配している

そもそも弱肉強食の世界に、手出ししたワンパクが野暮だったのだろう

 

巣の周りに彼女たちの遺骸などはないことがせめてもの救いだった

 

虚無感と淋しさを抱えながら、持ってきていたエサを片付け、車へと乗り込んだ

車を発進させ、舗装道路に出たあたりでキツネのように見える影があった

二人は車を飛びだした

 

彼女だっ!!

 



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彼女に駆け寄り、安堵の声をあげた

しかし、彼女の様子がおかしい

人間には伝わらないが、彼女が何か話している

鳴き声にもならないようなかすれた声で、『ワゥワアーゥアアワァ』

何かを伝えたいらしい

助けを求めるような、すがるようなそんな言葉に思えた

そして、その助けが『今』必要なんだと

 

『どうした?』と問いかけても、当然答えてはくれない

ただ『ワゥワアーゥアアワァ』と同じ言葉をワンパクを見つめて何度も繰り返すだけ

もうこのときは緊急事態だったためか、彼女はワンパク夫婦に体を触らせてくれていた

 

『ワゥワアーゥアアワァ』

 

舗装された道路に彼女の足跡が残っている

彼女が水に浸かった様子もない

 

『血だ』

彼女の足からは、大量に出血していた

それが、舗装道路の遙かむこうから続いていた

『子供たちはどうした?!』

『ワゥワアーゥアアワァ』

また彼女は同じ言葉を発する

そしてしきりにワンパク夫婦の車の匂いを嗅ぐ

後部座席のドアを開け、

『乗るか?!』

と促しても、車の中の匂いを嗅ぐだけで、中には入ろうとはしなかった

警戒心はまだ完全には解かれてはいないうえ、子供たちを置いていくわけにはいかないということからだろう

ということは、子供たちは無事?

周りを必死に探すが、子供たちは見当たらない

彼女の血の足跡を辿ってもみたがやはり子供たちはいない

ワンパク夫婦がずっと子供たちを必死に探している間、彼女は車の匂いを嗅いでいた

何度か彼女を車に乗せようと試みたが、やはり乗る気配はない

 

なぜ彼女は怪我をしているのか

なぜ子供はいないのか

なぜ彼女は取り乱しているのか

 

さっぱりわからないまま、状況は変わることはなくすでに空が白み始めていた

 

もう帰らなければ

彼女にはちゃんと巣に戻ることと、ちゃんとエサを食べること、足の傷を早く治すこと、そして【なんとかする】ことを伝え、帰路につくこととした

『ワゥワアーゥアアワァ』

帰りの車中でも頭から離れない

2、3日後にはその年の最大の寒波が来る予報だった

その寒波を彼女たちは乗り切ることはできないだろう

 

ワンパクは妻に言った

『彼女だけでも飼おう。万が一、子供たちも無事だとしたら全員飼おう。』

涙を流している妻は頷いた

仕事の合間に調べていた保護団体を妻に教えて、昼間のうちに連絡をとるよう伝えた

 

どうか子供たちが無事でありますように…

 

 

小さな命

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保護団体に連絡したあとすぐに折り返しの電話があった

保『無事に保護できました』

保護団体では手に負えず、保護団体から自治体へ保護要請をしたとのことだった

ワ『子供たちは無事ですか?』

保『ええ、無事に二頭保護しましたよ』

ワ『やったー!よかった!!ホントよかった!

保『それより本当に三頭引き取りされるんですか?』

後から知らされたことだが、電話で保護を依頼しておきながら、いざ引き取りとなると尻込みする人が多いため、このような確認をしているとのこと

ワ『子供たちはどこにいましたか!?』

保『え?普通にいましたよ?そのへんの草むらに…』

ワ『えっ?えっ?!普通に?!』

保『えぇ、普通に日なたぼっこしてました』

 

 

ズッコーーーーン!!

 

ワンパクが朝方まで必死に探したのはなんだったの?!

あんなに必死に助けを求めていたのはいったい何?!

 

 

安寧を求めてf:id:wanpaku-yaseiji:20190717225209j:image

彼女たちを引き取りに保護施設に向かった

彼女はなんの抵抗もすることなく差し出した首輪を付けさせてくれた

子供たちを彼女から取り上げても、不安そうにしたり怒ったりすることもなかった

彼女は保護された時点で、もう誰のもとに行くのかを悟っていたのだと思う

 

彼女たちをワンパクの家に連れ帰った

毎日3回の散歩

エサやり

寒波で天候が荒れて不安がる彼女の隣で寝たこともあった

それでも彼女は心を開かない

家に連れてきてからちょうど一週間が経ったあの日を忘れはしない

ワンパクが朝、寝室から出てきて階段を降りたとき、階段の下で尻尾を振ってワンパクを待つ彼女がいた

心の氷が溶けた瞬間だ

初めて彼女が尻尾を振った

おもわず彼女を抱きしめた

 

 

彼女はトラウマなのだろうか、天候が荒れるとパニック状態に陥る

玄関のガラスを割って脱走したり、電話線を引きちぎったり、お気に入りのソファに穴を空けたり、テレビを破壊したり、家の大黒柱をかじって細くしてしまったり

それでも少しずつ少しずつ心の距離を縮めていった


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子供たちはどんどん成長していったf:id:wanpaku-yaseiji:20190717225300j:image

 

一人で歩けるようになり

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乳離れして、エサを食べるようになり
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母犬はすっかり甘えるようになり
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ますます子供たちは成長し
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思っていた以上にデカくなり
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どこに出掛けるにもいつも一緒

すっかり甘えん坊
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母犬は我が子の子守もしてくれます
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昔から犬は安産の神様といいますよね

この犬たちが来てからというもの、いままでの治療がウソのように、次々と不妊治療がうまくいき、元気な赤ちゃんを授かることができました

ワンパク夫婦はこの犬たちが、我が子を連れてきてくれたのではないかと思っています

『主(ぬし)』がいたあの山で、変わった力を持った生き物がいたとしても不思議ではありません


【山の不思議話】山の主 - East End Wilder

ちなみに、母犬はワンパク夫婦以外が我が子に近づくと、前に立ち塞がって吠えまくり、威嚇します

我が子が泣くと、隣に行ってあやしたり見守ったりします

 

それにしても、母犬が必死に助けを求めていたあれはいったい何だったのでしょう?

妻とたまにそんな話をしながら母犬が我が子をあやすのを眺めています


【山の不思議話】霊山 - East End Wilder